トランス脂肪酸の危険性
トランス脂肪酸には牛乳や牛肉のように天然に微量に含まれているものと、油脂を加工・精製する工程でできるものの2種類あります。一般的にはマーガリンやショートニングといった加工油脂や、これらを原料として製造されるパンに多く含まれています。ショートニングとはラードの代用品としてアメリカで開発された人工油脂です。用途としてはクッキーやビスケットといった焼き菓子、パン、アイスクリーム、フライ用の揚げ油などに用いられています。マーガリンやショートニングはその化学構造が人工的であるという点だけが問題なのではありません。もっと問題なのは、トランス脂肪酸が極めて大量に含まれているのです。トランス脂肪酸は、摂り過ぎると血液中の悪玉コレステロールが増えて善玉コレステロールを減らす働きがあるため、動脈硬化や心臓疾患の原因となるといわれています。WHO(世界保健機関)も、トランス脂肪酸の摂取を抑えるべきだとして、1日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満とすることを勧告している。しかし、日本ではいまだに食品への表示が義務付けられていません。
そこで、世界的にはトランス脂肪酸の規制が広がっています。米国政府のFDA(米食品医薬品局)は、昨年11月にトランス脂肪酸を含む硬化油を食品添加物から外す決定をした。スイス(08年)、オーストリア(09年)などでは、100g当たり2g以上のトランス脂肪酸を含んだ油脂の国内流通を禁止。米国、カナダ、アルゼンチン、ブラジル、韓国、香港、中国では、食品含有量表示を義務付けている。
また、米国のニューヨーク市では2008年7月から、すべてのメニューに含まれるトランス脂肪酸の量を一食当たり0.5グラム未満に抑えるよう義務付ける。昨年7月、ファストフード店を含む全レストランに対し、調理油やマーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸の量を一食あたり0.5グラム未満に抑える条例を施行した。
それにも関わらず、現在トランス脂肪酸の表示義務や上限値の設定はありません。日本政対応は、無規制で民間任せの状態である。世界的に広がっている表示義務化も日本では行われていない。消費者庁は、11年2月21日に「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針について」を策定したが、それは表示の義務化ではなく、食品事業者に情報開示するかどうかを任せるというものである。使用規制がないために、食品事業者の中には前述のようにトランス脂肪酸が含まれているショートニングを平気で使っている事業者がいるし、市販のマーガリンの中でも、毎朝パンに塗るだけで平均摂取量の2倍近く取ってしまうほどトランス脂肪酸の含有量が高いものが流通している。日本人の通常の食生活も絶えず変化をしており、外食産業、コンビニや冷凍加工食品への依存度が高くなりつつあり、トランス脂肪酸を多く食べる危険にさらされているのです。ところで、日本の食品でもトランス脂肪酸の表示の義務がある海外で販売されているものもある。例えば、香港・シンガポールで売られている日本の商品の原材料表示ラベルを調べると、トランス脂肪酸の量がわかるのです。この表示義務がある香港ではL社の「コ?ラのマーチ(いちご)」に含まれるトランス脂肪酸の量は、たった1箱でWHOの1日あたり推奨上限値相当の2gになることがわかった。このように日本ではトランス脂肪酸の表示の義務がなく、危険を放置している状態である。
さて、私たちはトランス脂肪酸が多く含まれている食品を日常的に摂取しているのでしょうか? ワースト5の食品グループをチェックしてみましょう(1)ぬりもの・オイル系:マーガリン、ピーナツバター、マヨネーズ、コーヒーのクリームなど(2)お菓子系:ケーキ、アイスクリーム、チョコレート菓子、クッキー、クラッカー、菓子パン、ポテトチップス、ドーナツなど(3)インスタント・レトルト系:カップ麺、インスタント麺、缶のスープ、シチューのルウ、カレーのルウなど(4)ファーストフードやファミリーレストラン系:チキンナゲット、フライドポテト、フライドチキン、パイなど(5)冷凍食品系:から揚げ、ケーキ、ピザ、魚のから揚げ、コロッケ、天ぷらなどである。色々なものにトランス脂肪酸は含まれているのです。どう対処すればいいのかと言うと、マーガリンやお菓子やインスタント麺は食べない。食べるなら、自然食品店などので安全なものを捜す。それからファーストフードやファミレスや中食になるべく行かずに、家で手作りの食事をすれば、トランス脂肪酸の被害から逃げられると思います。それにしても、日本の官庁の対応はひどいですね。
以上、武蔵小杉徒歩2分の内科クリニック、一般内科、糖尿病内科の院長の布施純郎のお話でした。