私たちの腸内にはたくさんの細菌が住んでいます。電子顕微鏡で見るとその様子が花畑のように見えることから腸内フローラ(腸内細菌叢)と呼ばれるようになりました。私たちの体の中に腸内細菌は600兆~1000兆個、1000種類以上いるといわれており、重さにすると約1.5kgにもなります。また、腸内フローラは一人ひとりで異なっており、同じ腸内フローラを持つ人間はほかに存在しないとされています。
病気は腸内細菌が減少し、腸内フローラのバランスが崩れることによって、起こるのです。たとえば免疫力が低下し、アトピーやぜん息、花粉症などのアレルギー性疾患が起こってきます。また、がんの発生を促します。最近、増えてきた潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患も発生しやすくなります。日本では食生活の欧米化により、食物繊維が減って動物性脂肪が増えたため、炎症性腸疾患の数も増加してきています。食物繊維中心の食事をしていた1960年頃までは、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患はほとんどありませんでした。
病気をよくするためには、食事が大事です。食物繊維は腸内細菌のエサになります。食物繊維が不足すると腸内細菌のパワーは落ちます。健康維持のためには、食物繊維をたくさん食べることが大事です。しかし、日本人は食物繊維の摂取量は厚労省の基準の1日20gを大きく下回っています。どういうものに食物繊維が多い事言うと、ごぼう、アスパラガス、たまねぎ、大豆です。納豆やキムチなどの発酵食品もとても良いですね。
しかし、すでに病気が進行している人には「糞便移植療法」という新しい治療法があります。患者さんに健康な人の腸内細菌を移植する「糞便移植療法」です。健康な人の便と生理食塩水を混ぜて液体化したものを、内視鏡を使って患者さんの腸内に注入するという新しい治療法です。正常な腸内細菌を患者さんの腸内フローラ(腸内細菌が多数集まっている場所)に注入することで、腸内細菌のバランスが正常化し、症状の改善が期待できます。
ある患者Iさんのお話です。仕事中に突然の腹痛と強烈な便意に襲われます。これが、恐ろしい病気の初期サインでした。1週間たっても腹痛は止まず、1日に3-4回という下痢に苦しみます。体のだるさもあり、熱を測ると38度を超えていました。近所の医院を受診すると「お腹に来る風邪」と診断されました。しかし、どれだけたっても症状が治まらないばかりか、さらに激しい腹痛に見舞われることになり、トイレに駆け込むと粘液状の血便が出ていました。今度は、胃腸科を受診し、大腸の内視鏡検査を行ったIさん。その結果、大腸の壁が広範囲に渡ってただれる「潰瘍性大腸炎」だと診断されました。それから、たくさんの薬をのんで、下痢や血便と戦いました。今から1年前、Iさんは職場の同僚から「腸の難病治療に便移植で挑む」という、順天堂医院の石川助教の記事を見せられました。Iさんは便移植を決意し、健康体である妹から便の提供を受けて治療に臨みました。治療はわずか40分で、入院の必要もありません!体への負担が少ない治療だということがわかります。便移植から4時間後のこと、Iさんと妹が大分に戻ろうと空港に向かっていたとき、すでにお腹に全く痛みも不快感もないことに気づいたそうです。便移植から半年経ちますが、薬をやめても下痢や腹痛はもうなく、健康な毎日を送っているそうです。
便移植はとても画期的な治療ですね。「糞便移植療法」はクロストリジウム・ディフィシル感染症 クローン病・潰瘍性大腸炎で行われていますが、今後、肥満やアレルギーや認知症の治療などにも応用されると素晴らしいと思います。
小杉中央クリニックは平成28年年末に再開発のため、武蔵小杉タワープレイスに引っ越しました。きれいなクリニックができあがりました。武蔵小杉の医療モールには眼科、耳鼻科、整形外科もあります。何かありましたら、ご相談に乗ります。お立ち寄りください。
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