中年以降の方は多かれ、少なかれ歯周病を発症していると思います。その歯周病は、歯だけでなく、全身の病気に関係しているのです。歯周病とは、細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患です。歯と歯肉の境目(歯肉溝)の清掃が行き届かないでいると、そこに多くの細菌が停滞し(歯垢の蓄積)歯肉の辺縁が「炎症」を帯びて赤くなったり、腫れたりします(痛みはほとんどの場合ありません)。そして、進行すると歯周ポケットと呼ばれる歯と歯肉の境目が深くなり、歯を支える土台(歯槽骨)が溶けて歯が動くようになり、最後は抜歯をしなければいけなくなってしまいます。
さて、歯肉とは体の中でも非常に敏感な組織であり、お口の中は全身の中でも微生物、細菌などが最も多く存在している場所でもあります。そしてあらゆる全身疾患と歯周病の関連性が近年の研究により指摘され始めています。歯周病が進行すると、血液を介して歯周病菌が各臓器に運ばれ、全身疾患に悪影響を及ぼします。歯周病との関連を挙げられているものには呼吸器系疾患、心疾患、糖尿病や妊娠などがありますが、歯周病と糖尿病が双方に悪影響を及ぼすことや、歯周病が日本人の死因の3番目にあげられる肺炎や感染性心内膜炎などの心疾患に深く関わっていることが分かっています。私ののクリニックでは、糖尿病の患者さんが多いのですが、糖尿病のコントロールの悪い患者さんでは、50歳代でも、歯が何本も抜けていたり、総入れ歯も珍しくありません。歯周病と病気は密接に関連しています。
近年の研究では、それから、その歯周病と動脈硬化の関係ですが、そもそも動脈硬化とは血管が厚く硬くなり血管が狭くなる病気です。その動脈硬化の病巣から歯周病菌が検出されているとの報告があります。5種類の歯周病菌が動脈硬化を起こしている血管から見つかっています。これは、歯周病菌が歯肉から血管内に入り、歯周病菌が産生する内毒素や歯周病巣で産生された炎症性物質(サイトカイン)が原因となって、血管に炎症を起こし、血管そのものを硬化させたり、血栓を形成するように働いて動脈硬化を進行させると考えられています。また、歯周ポケットが深くなるほど血液中に侵入する歯周病菌が多くなるという結果報告もあります。
それから、なぜ歯周病がアテローム性動脈硬化を促進するのでしょうか? 歯周病菌は歯茎から血管内に入りこみ、全身に回る性質があります。歯周病菌の代表格である「ジンジバリス菌」は、血管内で「MCP-1(サイトカインと呼ばれ、炎症を誘発する物質)」の産生を促します。MCP-1はマクロファージを呼び寄せる性質があるので、間接的にアテローム形成をアシストしてしまいます。また、ジンジバリス菌はマクロファージを泡沫細胞に変える性質があることも知られています。さらに、研究でも現在のところ、歯周病は動脈硬化が冠状動脈で起きた場合、症状悪化の要因となることを示すような結果が出ています。動脈硬化を起こした部分からは歯周病菌が数多く発見され、歯周病にかかっている人では、心血管疾患の発症リスクは1.15~1.24倍高まるとのデータもあります。さらに、歯周病が血管に作用して動脈硬化を引きおこすと考えられる根拠として、実際に動脈硬化をおこした冠動脈の血管の壁から歯周病菌が見つかっています。重度の歯周病患者の方が発見率が高いこともわかっています。
結論として、歯周病は、動脈硬化や糖尿病などの全身病に関連しています。歯をきちんとケアすることで、全身的な病気になることも予防できると思います。しっかりと歯磨きして、歯周病のひどい場合は歯医者さんに診てもらいましょう。
武蔵小杉駅前の小杉中央クリニックです。タワープレイスに移転してもうすぐ1年となります。生活習慣病や風邪などではなくても、胃が痛いがストレスみたい。うつみたいな症状があるが、精神科に行くほどではないなど身体に気になる症状のある方は、気軽にご相談ください。